第53回 中国における与信管理:業界分析 化学工業

更新日:2024.08.29

 今回は以前、業界分析で取り上げました化学工業についてビジネスモデルや与信管理のポイント、業界の特徴について触れていきたいと思います。

1、ビジネスモデル

 化学工業は、石油や天然ガスなどの原料に化学反応を加えて、より価値の高い素材や製品を製造する業種です。斯業界は、生産にあたり大型設備と高度な技術が必要になることから、資本集約型かつ技術集約型の産業であるといえます。なお、中国の化学工業における中心は、石油・天然ガス化学工業、石炭化学工業、塩化学工業、ファインケミカルの4分野です。

2、与信管理のポイント

(1)環境規制の強化

 化学工業は、中国政府が推進する環境保護政策の中で、重点分野の対象となっており、斯業界においては、中国政府による環境規制の強化に大きな影響を受けています。2021年10月に国務院は『2030年までにカーボンピークアウト行動計画の発行に関する通知』を通達し、エネルギー消費と炭素排出が高いプロジェクトの盲目的な発展を抑制することを強調しました。これを背景に、斯業界における新規建設工事の許認可審査が厳しくなっており、既存事業に対する規制も強化されています。環境規制基準に満たさない企業の淘汰が加速し、低エネルギー消費かつ低炭素排出の最新技術を導入している大手企業の優位性が更に高まると見込まれています。斯業界との取引に際しては、環境保全策と低炭素化対策の実施有無や環境保全コストによる収益圧迫の有無などを確認する必要があります。


(2)経済情勢

 2021年は、新型コロナの影響により世界及び中国経済の成長が鈍化し、金融緩和政策による通貨の供給増加などの要因によって石油、天然ガス、石炭の価格が大幅に上昇しました。石油・天然ガス化学工業、石炭化学工業などの企業を中心に、原価上昇につながっており、収益性の悪化が懸念さております。また、業界の川下に位置する建設業、自動車産業の需要低下により、売上高が伸び悩む企業も多いため、斯業界との取引に際しては、安定した販路の有無や、販売先の業界動向の確認も必要です。

(3)外部リスク

 各分野に応じて、以下のリスクに注意が必要です。
・石油・天然ガス化学工業
中国国内の天然資源枯渇リスク、輸入天然資源の価格変動リスク

・石炭化学工業
中国政府による石炭利用制限、二酸化炭素排出制限などの政策リスク

・塩化学工業
中国政府による生産調整、環境規制強化などの政策リスク

・ファインケミカル
輸送コスト上昇、輸送ル-ト障害などの輸送リスク

(4)ASEAN諸国の台頭

 近年、逆グローバル化が生じており、貿易障壁の問題が深刻化しています。2022年初め、対中国繊維織物に対する反ダンピング調査が実施され、新たに反ダンピング関税の徴収が実施されるなど、逆風が強まっています。取引先企業に対しては、海外への販売規模や政治的リスクの影響度度合いを確認する必要があるでしょう。

3、業界の特徴

(1)製品価格大幅上昇

 金融緩和政策や供給を上回る需要増加により、2021年にエネルギーと商品先物の価格が世界的に大幅に上昇しました。中国においても石油と化学工業製品の価格急騰により、46種類の主要な無機化学原料のうち、39種類は前年より価格が上昇し、一部の主要商品先物の価格が史上最高値を記録しました。87種類の主要な有機化学原料のうち、80種類の価格が前年より上昇したほか、43種類の主要な合成材料のうち、41種類の価格が上昇しました。更に、尿素、液体アンモニアなどの窒素肥料の価格は過去最高値を記録し、リン肥料、カリウム肥料、複合肥料などもここ10年の最高値を記録しました。

(2)輸出が大幅に増加

 2021年における化学工業全体の輸出額は、9,857億元(前年比+27.0%)となっており、大幅な増加がみられます。業種別の輸出額としては、化学原料・化学製品製造業4,763億4,000万元(同+39.0%)、化学繊維製造業527億5,000万元(同+38.0%)、ゴム・プラスチック製品製造業4,296億1,000万元(同+14.9%)となっており、製品別の上位は、有機化学品が692億3,200万ドル(同+48.3%)、ゴム製品が578億2,000万ドル(同+34.6%)、鉱物肥料・化学肥料が116億3,400万ドル(同+73.1%)となっています。

(3)過剰生産設備の淘汰

 「カーボンピークアウト・カーボンニュートラル」政策の推進により、石油化学と石炭化学などの分野において、古い生産設備の入れ替えや処分が加速しています。また、クリーンエネルギーの利用増に伴い、太陽光発電の原材料となる工業シリコンやEVAゴム膜、風力発電用風車の羽根の原材料としての基体樹脂、コーティングなどの需要が拡大する見込みであるほか、新エネルギー車製造に必要な炭酸リチウムやタイヤの需要増加が期待されている。

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