番外編 中国企業の倒産~日本と比べた実態と法的手続~

更新日:2025年07月15日

中国企業倒産の実態

 2024年11月時点の中国の企業数は6,086.7万社(前年比+5.4%)となっており、日本の10倍以上の規模を誇っている。他方、倒産件数においても、2024年に過去最多となる10万3,551件を記録しており、日本における2024年の倒産件数7,538件と比較すると、そのスケールとリスクの高さがよく分かる。(図1)

図表1 中国と日本の企業倒産件数推移

取引先が倒産したらどれぐらい回収できる?

 もし取引先が破産した場合、自社にとってどの程度のコストと期間が必要になり、最終的にどれほどの債権を回収できるのかは極めて重要な視点である。

 日本では、2023年の破産既済事件(法人・その他)5,936件のうち、86.5%において審理期間が1年以内となっている(※1)が、債権者への配当実施に至った事件は24.4%にとどまっており、配当実施事件においても、70.7%は配当率が10%以下となっている(※2)。一方で、中国では、上海破産法廷が公開した2023年のデータによると、破産清算案件の平均審理期間は291日、一般債権の平均配当率はわずか0.8%にとどまる。

 このように、日中いずれの制度においても、破産手続が開始された場合の債権回収は極めて限定的であり、手続上での回収は見込みにくいのが現実である。したがって、事前の信用調査や債権保全によって、取引開始段階から回収リスクの低減を図ることが、より実効的な対策となる。

※1 審理期間は、破産手続の終結、および異時・同意廃止を対象に算出しており、個人破産事件も含む

※2 平成16年の日本司法統計年報によるデータ

破産手続の9割以上が清算?

 リスクモンスターチャイナが2024年9月に行ったアンケート調査では、日系企業の約半数が過去3年間に回収遅延や貸倒れを経験しており、86.0%が今後も倒産が増えると予測している結果となった。つまり、中国では倒産に遭遇するリスクが高い状態にある中で、今後の中国経済に対する悲観的な見通しから、債権回収リスクが一層高まる可能性があると、多くの企業が考えているということである。

表1 中国の破産手続の種類

 全体的には、日本と中国の破産手続は流れとしては非常に似ている(表2)。いずれも誰かが申立てを行い、裁判所がそれを受理・決定することで手続が開始される。その後、管財人が債務者の財産を管理し、換価・配当を債権者に実施するという流れだ。

表2 中国と日本の法的破産(清算型)手続

破産申立ては誰が行う?

 破産の申立ては、中国でも日本でも債務者自身と債権者のどちらからも行うことができる。日本では、借金を抱えた債務者自身が経済的に立ち行かなくなったときに、自ら裁判所に申し立てる自己破産が一般的である。日本の司法統計によれば、2023年に全国で申し立てられた法人破産事件7,470件のうち、自己破産は7,317件(98.0%)となっており圧倒的に多い。しかし、中国では、お金を返してもらえない債権者が、債務者を破産させる手続きとして利用されていることが多く、2024年の集計では、破産案件の85.0%は債権者が申し立てている。その要因の一つとして、日本では、破産を申し立てる時に破産管財人の報酬や管財業務、官報公告などの費用が含まれた高額な予納金が必要なのに対して、中国では予納金が必要なく、費用は後の財産処理で精算される仕組みとなっていることが挙げられる。

破産手続の開始条件は?

 日本では、法人が破産手続きを開始するには「債務者が支払不能または債務超過の状態であること」が要件とされている。一方、中国では「債務者が期限到来の債務を返済できないこと」が前提条件となっており、さらに「債務超過または明らかな支払い能力不足の状態にあること」が求められる。「明らかな支払い能力不足」とは、資産が現金化困難である場合や代表者が行方不明である場合、長期的な赤字経営となっている場合などが含まれる。

破産公告は、どこで掲載されるか?

 日本では、破産手続開始決定や終結決定などの公告は官報に掲載される。官報は、法律や政令などを掲載し、休日を除き毎日発行されており、90日間はオンラインでも閲覧可能である。中国では、最高人民法院が破産案件の情報共有と審理の効率化を図るために、2016年8月より「全国企業破産重整案件情報網」という専用サイトを運営しており、債務者情報の公開や債権者・管財人によるオンライン申請、オンライン債権者集会や電子投票機能まで対応している。

破産前に回収した債権は取戻されるか?

 日本では、債務者が財産を不当に処分する「詐害行為」や、特定の債権者だけに有利な弁済を行う「偏頗行為」が破産手続き開始前にあった場合、それらの行為は取り消される可能性がある。中国でも同様の仕組みがあり、破産申立受理前1年以内に不適切な取引(日本の詐害行為に相当)を行った場合や、6か月以内に特定の債権者にだけ弁済した場合(日本の偏頗行為に相当)には、その弁済が取り消されるリスクがある。

 両国ともに、一定の時期以降の取引については管財人による取消のリスクがあるが、否認権が行使されるかどうかは管財人の判断によるため、債権者としては否認リスクを認識しつつも、債権回収を最優先に図るべきといえる。

破産財団(債務者の財産)の配当順位は?

 日本では、財団債権、優先的破産債権、一般的破産債権、劣後的破産債権、約定劣後的破産債権の順位で破産財団の配当が行われる。中国では、破産費用、共益債務、従業員給与、税金、普通破産債権の順となっている(表3)。配当順位について日中で共通する点が多く、いずれも破産手続を進むための費用や従業員の給与や税金が優先されるが、一般的な債権者に対する配当は限られている。

表3 中国と日本の破産財団の配当順位

まとめ

 中国市場において、倒産件数の多さと低い回収率、さらにはコストと期間の負担の大きさは、企業経営にとって無視できない要素である。中国市場においてビジネスを成功させるには、倒産リスクを常に念頭に置くことが重要だ。取引先の信用調査を徹底し、財務状況や支払い能力を定期的に確認することで、倒産リスクを最小限に抑える対策が求められる。また、取引後の債権状況を定期的にチェックし、中国独自の破産制度と手続の流れを理解し、回収の遅れや相手の異変を早期に察知できる内部体制を構築することも重要である。

[実施概要]

・調査名称 :中国企業の倒産~日本と比べた実態と法的手続~
・調査方法 :法令比較分析
・参考資料:
 日本「破産法」
 中国「企業破産法」
 https://www.samr.gov.cn/xw/mtjj/art/2025/art_8b91a03be26845a8b10a68f7e43a5034.html(中国国家市場監督管理局)
 http://gongbao.court.gov.cn/ArticleList.html?serial_no=sftj(中国最高人民法院司法統計)
 https://www.riskmonster.co.jp/mailmagazine/post-18425/(リスクモンスター)
 https://www.sohu.com/a/852425036_121806258
 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/721/012721.pdf(日本最高裁判所事務総局令和5年司法統計年報)
 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/425/001425.pdf(日本最高裁判所事務総局平成16年司法統計年報)
 https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzIwMTc4NTQ3MA==&mid=2247540789&idx=1&sn=297feb860e2943eba0d54a929b8aaee9&chksm=9716ab7ebcd1720a5a861e0c163ec1b76d5ee3aeab08d16c4d9f7d912a42283495c93501e115&mpshare=1&scene=1&srcid=0506hEjclaDfe7JwDJ7uOPiZ&sharer_shareinfo=ef839be5847afc93579950458ce2971a&sharer_shareinfo_first=8711d79310fc0b5b249cc1c51b1aed43#rd(上海破産法廷2023年度審理データ)

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