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更新日:2016.01.29
中国における日系企業の撤退が昨今メディアに取り上げられますが、現状の進出企業数や各企業の実態、今後の方針について今回ご紹介したいと思います。
中国進出の日系企業数は1万社~3万社と言われており、海外進出の日系企業総数のうち中国が全体の48%を占めております。
進出企業数は調査元により異なりますが、帝国データバンク(15年6月)調べでは1万3,256社、外務省「海外在留邦人数調査統計(14年10月)」では3万1,279社となっており、前者は日本法人数を指しますが、後者は中国現地法人数や日本人が中国で設立し法人も含まれます。
当社が保有する北京・上海を中心とした中国企業のデータベースから日系の中国法人5,410社を調べたところ、日本法人数は3,826社であり、中国進出している日本法人1社につき平均1.4社中国法人があることが分かります。10社以上中国法人があった企業は11社で、日立製作所、三井物産、豊田通商、住友商事などが該当します。
年度で見た場合、日中関係悪化直前の2011年度がピークとなり33,420社(外務省調べ)で、翌年7%強減少しましたが、その後ゆるやかに毎年数%増加しています。
業種別では、製造業の割合が多く(帝国データバンク調べ)、続いて卸売業、サービス業の順となっており、卸売業のうち「婦人・子供服卸」や「衣服身辺雑貨卸」といったアパレル関連は減少傾向です。
JETROの調査によると中国へ進出している日系企業の2015年営業利益見込みは以下表の通りで、黒字企業がやや減少し、営業利益が悪化している企業が8.6ポイント増加しています。
区分 | 比率 | 前年比 |
---|---|---|
黒字 | 60.4% | ▲3.7ポイント |
均衡 | 15.9% | +1.3ポイント |
赤字 | 23.8% | +2.5ポイント |
区分 | 比率 | 前年比 |
---|---|---|
改善 | 32.0% | ▲10.1% |
横ばい | 33.6% | +1.5% |
悪化 | 34.4% | +8.6ポイント |
黒字企業の割合が高い業種としては、輸送機械器具、運輸業、化学・医薬、ゴム・皮革でいずれも70%を超過しており、一方、黒字企業の割合が低いのは、繊維(34.6%)、食料品(45.2%)、鉄・非鉄・金属(49.2%)です。
企業規模別でみると、大企業の黒字企業割合は66%に対し、中小企業(※)は46%であり、大企業の方が黒字企業の割合が多いと言えます。なお、営業利益が「悪化」の理由としては「現地市場での売上減少」「人件費の上昇」が2大理由です。
(※中小企業の定義は日本の中小企業法によるのもので業種等により基準が異なります)
JETROの調査によると、中国進出日系企業の今後1~2年の事業展開の方向性については以下のような結果になっております。
区分 | 比率 | 前年比 |
---|---|---|
拡大 | 38.1% | ▲8.4ポイント |
現状維持 | 51.3% | +5.3%ポイント |
縮小 | 8.8% | +2.3ポイント |
第三国へ移転・撤退 | 1.7% | +0.7ポイント |
縮小・撤退がやや増えているものの、拡大方向の企業が依然として多いことが分かります。業態別では、消費者向け販売(B to C)では拡大が51.1%であり、企業向け販売(B to B)の36.4%を大きく上回っています。
事業を「縮小」もしくは「移転・撤退」する理由としては上位から、「売上の減少」、「コストの増加」、「成長性、潜在力の低さ」を挙げており、繊維業や電気機械器具業種業での「縮小・撤退」の比率が高いです。
また、今後1~3年における輸出市場として最も重要と考える国としては、日本以外ではベトナム、米国、インドネシア、タイが上位5カ国となり、ベトナムが上昇しています。
中国進出日系企業の問題点としては、「従業員の賃金上昇」が一番に挙げられていますが、 企業のコスト構造としては、製造原価に占める人件費の比率は平均19.8%であり、材料費の比率は平均61.1%と、材料費がコストの大半を占める構造となっています。製造コストの低下に向けては、材料費の削減に向けた取り組みが重要となるため、今後の「進出先での現地調達率を引き上げる」と回答した企業の割合は85.0%もありました。なお、日本での製造原価を100とした場合の現地での製造原価は、平均81.9となり、増加傾向にあります。
また、人件費削減のために駐在員を削減し、経営の現地化を各企業が取り組んでいます。この1年の実績では駐在員が減少した企業は全体の23.8%でしたが、今後の方針としては更に増加し27.8%の企業が削減を検討しております。
このように中国進出する日系企業において撤退企業は増加傾向にはありますが、依然として拡大意欲のある企業の方が多いことが分かります。ただし、これまでのようにコストが安い製造拠点としての中国は限界が出ており、各企業コスト増加という課題に対して、現地調達の増加や駐在員比率の削減や生産効率のアップを検討しています。
以上
※ 参考データ
・リスクモンスターチャイナ 中国企業データベース
・外務省「海外在留邦人数調査統計」平成27年度版
・株式会社帝国データバンク社「中国進出企業の実態調査」(2015年6月)
・JETRO 2015年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査―中国編―(2015年12月)
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