第115期 中国の『低空経済』が未来を変える~ドローン編~

更新日:2024.11.25

 近年、中国では『低空経済』という新たな経済概念が注目を集めており、低空経済に関連したニュースが日々報道されています。
 今回のコラムでは、低空経済に関する基礎情報、中国政府が発表している政策、関連する統計データについてご紹介します。

低空経済とは?

 「低空経済」とは、地表から1,000メートル以下の空域、つまり「低空」を活用した経済活動を指します。この概念は、ドローン、ヘリコプター、軽飛行機、さらには将来の空飛ぶクルマなど、さまざまな航空機を利用したサービスや産業へと広がっています。

 中国における『低空経済』という概念は2010年初頭に提唱されています。 低空経済は新質生産力(※1)を促進する統合的な経済形態であり、地域経済の新たな成長を引き出し、都市発展に新たな空間を拡張し、社会ガバナンスの新たな手段をもたらします。また、業界の枠を超えた新しい仕組みを創出し、産業発展の新たな要素となることが期待されています。

 中国では、2023年に「低空域開放」がさらに進み、ビジネスの可能性が大きく広がりました。これにより、物流、観光、エンターテインメント、緊急医療といった分野での革新が期待されています。

なぜ今、低空経済が注目されているのか?

 中国政府は、低空域の管理を緩和し、民間企業や自治体がこの空域をより自由に活用できる仕組みを整えています。これにより、ドローン配送や観光フライトなど、新たなビジネスモデルが誕生しつつあります。

 特に都市部では、地上の交通渋滞が深刻化する中、空を活用することで効率的な移動や配送が実現する可能性があります。例えば、北京や上海などの大都市圏では、緊急医療や災害時の救援物資の輸送がドローンによって行われることがすでに始まっています。さらに、観光業においても、上空からのパノラマビューを提供するツアーが人気を集め、新たな価値を生み出しています。

 2023年、中国の低空経済における経済規模は5059.5億元(約10.8兆円、1元=21.4円換算)とされ、前年比成長率は33.8%に達しています。また、低空インフラと飛行保障など、今後のポテンシャルは十分にあり、楽観的に見れば2026年には低空経済の経済規模が1兆元を突破する見込みです。

図1:低空経済の全体像
『中国低空経済発展研究報告(2024)』より抜粋

低空経済(主にドローン)に対する経済政策

 民用無人航空機に関する政策は2017年以降、数多く発表されており、今回はその中でも業界の方向性や安全管理に関するものを中心に取り上げます。

・2017年12月1日発表

 《关于促进和规范民用无人机制造业发展的指导意见》

和訳:『民用無人機産業の発展を促進・規定するための指導意見』

民用無人機産業の発展目標が明確に定められている。

2020年までに、民用無人機産業は継続的に迅速に発展し、産業規模は600億元に達し、年平均成長率は40%以上を目指します。この期間中、消費者向け無人機技術は国際的にリードし、業務用途の無人機技術は国際的な先進水準に達することが求められている。


具体的には、以下のような目標などが挙げられる:
2〜5社の企業がコア技術を掌握し、世界的な影響力を持つリーディング企業となる。
200項目以上の民用無人機標準が制定または改訂され、製品開発、産業応用、安全監視などの業界のニーズに応える。
国家級の安全管理プラットフォームが基本的に設立され、企業レベルの監視プラットフォームが全カバーされ、すべての民用無人機製品が「一機一码」の体制を実現し、自動識別率は100%に達する。

2025年には、民用無人機の産業規模は1800億元に達し、年平均成長率は25%以上が見込まれている。産業規模、技術レベル、企業の実力は国際的にリードし続け、標準、検査認証体系、産業体系が整備され、安全で制御可能な良好な発展が実現されることを目指している。

・2023年6月1日発表

《民用无人驾驶航空器系统安全要求》

和訳:『民用無人航空機システム安全要求』

該要求は中国における民用無人機分野の初の強制的な国家基準であり、航空模型を除く微型、軽型、および小型の民用無人機に適用される。盗難警報システム、遠隔識別、緊急処置、構造強度、機体構造、全機落下、動力エネルギーシステム、制御可能性、エラー防止、感知と回避、データリンク保護、電磁互換性、耐風性、騒音、灯光、識別、使用説明書など、17の側面に関する強制的な技術要件とそれに対応する試験方法が提案されている。

・2024年1月1日発表

《民用无人驾驶航空器运行安全管理规则》

和訳:『民用無人航空機運行安全管理規則』

同規則は、ドローンの安全管理に特化しており、操縦士管理、登録、適航管理、空中交通管理、運行管理などの分野を含んでいる。操縦士の資格要件、登録手続き、飛行活動の安全基準を定めており、さまざまなシーンでのドローンの安全な使用を確保する。また、リスク評価と分類管理を強調し、無人航空機運行管理プラットフォームを核とした監視支援システムを構築し、ドローン業界の健全な発展を促進することを目指している。

低空経済に関するイノベーションについて

 低空経済に関する発明特許の申請公開件数は2014年の852件から2023年には14,134件に増加しており、近年は年間1万件以上の発明特許申請が公開されています。特に、申請は主に華東地域(※2)や中南地域(※3)に集中しています。

 赛迪顧問(※4)の統計によれば、2024年2月時点における中国の低空経済分野の企業数は5.7万社存在します。そのうち、業歴別に見ると、設立10年未満の企業が全体の80%を占めており、設立年数の浅い企業が業界を牽引しています。地域別では、60%以上の企業が中南および華東地域に分布しており、これは上記で示した発明特許の申請地域とも相関性を示しています。

上海で始まっている出前ドローン配送

 これまで定義や政策について述べてきましたが、ドローン配送はすでに私たちの身近な場所で始まっています。
 写真は2024年7月より上海市黄興公園でスタートした美団の「出前ドローン」配送スポットです。美団では自宅に限らず、ビルの宅配ロッカーなど、さまざまな受け取り場所を指定することが可能です。このたび、黄興公園内にドローンによる配送先が設定され、より便利なサービスが提供されるようになりました。(※5)

ドローンで生まれる新しい雇用

 ドローンは農業、測量、交通など多くの分野で活用されており、その影響で各業界においてドローン操縦士の需要が急速に高まっています。現在、ドローン操縦士は約100万人が不足しており、関連ポジションの月給は8000元(約17万円)から3万元(約64万円)まで幅広い水準に達しています。(※6)
 この需要に応えるため、ドローン操縦士を育成する専門機関が設立されており、新しい人材が次々と輩出されています。こうした動きは、ドローン産業の発展と雇用機会の拡大にもつながっています。

まとめ

 中国の低空経済は、今後さらに拡大していくと予想されています。特に2025年以降には、空飛ぶクルマなどの新たなモビリティサービスが本格化し、都市交通の姿も変わっていくでしょう。日本の企業も、この変革に対してどのようにビジネスチャンスを見出すかが問われているのかもしれません。

執筆者:利墨(上海)商务信息咨询有限公司  南 みなみ

※1 新質生産力
技術革新的な突破・製造要素の革新的な配置・産業の深度転換とアップグレードを通じて、革新主導で経済や社会に新しい価値を生む出す能力
※2 華東地域
南京、上海、杭州、合肥、景徳鎮などのエリアを指す。
※3 中南地域
広州、深圳、武漢、長沙などのエリアを指す。
※4 赛迪顧問
赛迪顾问股份有限公司の略称です。
今回、本コラムを作成するにあたり、赛迪顧問が2024年4月に発表した『中国低空経済発展研究報告(2024)』(日本からのアクセスに制限あり)より数値情報を参照いたしました。
※5 中国で「低空経済」が救世主に ドローン配送が急拡大(日本経済新聞)
※6 中国ではドローン操縦士が引っ張りだこに 月給約64万円も(人民網日本版)

※ 掲載の情報は、2024年11月時点のものです。
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