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更新日:2021.12.16
今回は以前、業界分析で取り上げました冶金工業についてビジネスモデルや与信管理のポイント、業界の特徴について触れていきたいと思います。
冶金産業は、鉱石などから金属を製錬し、金属材料を製造する業界です。製造された金属材料は、自動車、鉄道、家電製品、スマートフォンなどの生活に身近なものから銃火器などの軍需産業に至るまで様々な場面で活用されており、あらゆる産業の基盤となっています。この業種は、鉱山を調査し鉱石を採掘する採掘・選別業と、焙焼や溶錬などで鉱石から金属を製錬し加工する製錬・圧延加工業の2分野に大別されます。なお、各分野の特徴は次の通りです。
(1)専門採掘・選別業:鉱山を所有し、採掘・選別を専門に行う。
(2)専門製錬業:製錬設備、製錬に必要な電源設備を所有し、製錬を専門に行う。
(3)専門加工業:加工業を専門に行う。大規模な設備、高度な技術が不要であり、参入障壁が低い。
(4)製錬加工一体化型:製錬、加工を一体で行い、高い技術を要する高度加工分野に優位性を有する。
(5)採掘・選別・製錬一体化型:鉱山、製錬設備を所有しており、採掘、製錬を一体で行う。
(6)採掘・選別・製錬・加工一体化型:採掘から製錬、加工までを一貫して行う。専門事業者に比べ、収益面で優位性を有する。
冶金産業は典型的な規模型事業であり、規模が大きく市場シェアが高い企業ほど高収益となります。この業種で製造される金属材料は、差別化の余地が乏しいことから、企業は、競争力を維持するために規模の利益を追求する必要があります。また、近年は、中国政府主導で過剰生産の調整、中小規模企業の合併、事業統合が実施されており、企業の淘汰が進んでいます。この業種との取引に際しては、売上高規模、市場シェアの獲得割合などの企業の事業規模を確認する必要があります。
冶金産業で製造される鋼材等は、建設資材としても活用されており、不動産業や建設業の動向は、この業種に大きな影響を与えています。近年、中国政府は、「住宅は住むためで、投機売買するためではない」とし、加熱する不動産投資に対する抑制政策を打ち出しています。同政策により、建設資材需要は低下しており、この業界の中で建設資材を取り扱う企業の売上高は、大きく落ち込んでいます。この業種との取引に際しては、製品内容を確認するほか、エンドユーザーの業界動向についても注視する必要があります。
冶金産業は、中国国内で二高一剰(高汚染、高エネルギー消費、生産能力過剰)な産業と呼ばれています。中国政府は、二高一剰を改善するため、「第十一回五年計画」に、この業界の過剰生産抑制、環境規制強化を盛り込んでいます。同計画により、中国政府は、省エネ・環境保全型の製造設備を導入する企業に対して税制優遇をしているほか、環境基準に満たない製造設備を有する企業の廃業を進めています。この業種との取引に際しては、製品や製品製造過程が、中国政府が掲げる環境基準に合致したものであるかどうかを確認する必要があります。
近年、冶金産業の原材料は、中国国内における鉱物資源の採掘量減少に伴い、輸入鉱物資源への依存度が高まっています。輸入鉱物資源の価格は、需給バランスの変化と海上輸送費用の国際価格動向を確認し、原価負担が収益を圧迫していないか確認する必要があります。
2019年における冶金産業の売上高は、13兆3,857億元(前年比+7.0%)となりました。業種別としては、鉄系金属鉱採掘・選別業(同+11.1%)、非鉄金属製錬・圧延加工業(同+7.2%)、鉄系金属製錬・圧延加工業(同+6.8%)、非鉄金属鉱採掘・選別業(同-4.6%)となり、非鉄金属鉱採掘・選別業を除き前年比増加となりました。売上高が増加傾向にある一方で、税引前当期利益は、4,455億元(前年比-26.0%)となっており、収益性が低下しています。業種別としては、鉄系金属鉱採掘・選別業(同+396.5%)、非鉄金属製錬・圧延加工業(同+1.2%)、鉄系金属製錬・圧延加工業(同-37.6%)、非鉄金属鉱採掘・選別業(同-28.8%)となりました。鉄系金属鉱採掘・選別業において、前年比大幅増加となったものの、利益規模が大きい鉄系金属製錬・圧延加工業の減少が大きく影響し、この業界全体として減益推移となりました。
2019年における、機械工業、化学工業、繊維工業、電子工業などを含む全工業の生産能力・稼働率は、76.6%(前年比+0.1%)でした。そのうち、鉄系金属製錬・選別業は、80.0%(同+2.0%)、非鉄金属製錬・圧延加工業は、79.8%(同+1.0%)であり、この業界の製錬・圧延加工業は、全工業を上回る生産能力・稼働率となっています。
中国政府が、過剰生産抑制、環境規制強化等の政策を進める中で、企業の淘汰が進んでいます。特に2015年から2018年に企業間の合併、事業統廃合が活発化した結果、企業数は大きく減少しており、2020年3月末時点におけるこの業界の企業数は、鉄系金属鉱採掘・選別業が1,177社(2013年比-67.4%)、鉄系金属製錬・圧延加工業が5,100社(同-53.7)、非鉄金属鉱採掘・選別業が1,203社(同-42.9%)、非鉄金属製錬・圧延加工業が、7,204社(同-1.9%)となった。2019年の企業数は2013年に比べ約2,300社減少しています。
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