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更新日:2024.03.26
今回は以前、業界分析で取り上げました繊維工業についてビジネスモデルや与信管理のポイント、業界の特徴について触れていきたいと思います。
繊維工業は、生糸や綿糸、化学繊維などの紡績を行い、紡績服飾、靴、帽子製造業などに原材料を供給する業界であり、綿・化学繊維紡績業、毛紡績業、麻紡績業、絹紡績業の4分野に大別されます。斯業界は、繊維原料生産者、繊維卸売業者などから天然繊維や化学繊維を仕入れ、アパレルメーカーなどへ販売しています。斯業界の収益性は、繊維原料となる綿、麻、ポリエステル、ゴムなどの価格動向やアパレル業界の市場動向に大きく左右されます。
世界最大のアパレル輸出国である中国の輸出額は、2014年から2020年にかけて概ね減少傾向にあり、2020年に1,500億ドルを下回って直近10年間で最小値となりました。2021年には増加に転じたものの、最盛期の水準には達していません。アパレル業界の需給バランスに変化がみられる中で、アパレルメーカーの過剰製造、過剰在庫が問題視されており、今後は中国政府の介入により、繊維工業や紡績服飾・靴・帽子製造業などで生産調整が行われる可能性があります。斯業界との取引に際しては、販売先の業界動向を確認するほか、製造設備の稼働状況なども確認する必要があります。
繊維工業の染色加工時に生じる水質汚染が問題視される中、2018年に「中華人民共和国環境保護税法」、「中華人民共和国水汚染防止法」が施行され、環境規制が強化されています。中国政府が定める環境基準に抵触した企業は、工場の稼働停止や閉鎖処分が下されることから、斯業界との取引に際しては、環境保全策の実施状況や環境保全コストによるが収益への影響などを確認する必要があります。
中国国内の賃金水準上昇、ASEAN諸国の生産性向上などを背景に、アパレル業界における中国の価格優位性が弱まっており、製造の中心地が中国からASEAN諸国へ移管しつつあります。特に生産量が少なく、複雑な加工を要しない企業は、ASEAN諸国の台頭により、業績を落としています。斯業界との取引に際しては、販売基盤の安定性や販売先のアパレルメーカーにおける価格や品質面での優位性などを確認する必要があります。
近年、逆グローバル化が生じており、貿易障壁の問題が深刻化しています。2022年初め、対中国繊維織物に対する反ダンピング調査が実施され、新たに反ダンピング関税の徴収が実施されるなど、逆風が強まっています。取引先企業に対しては、海外への販売規模や政治的リスクの影響度度合いを確認する必要があるでしょう。
2021年における一定規模以上の紡績企業の付加価値は前年比+4.4%となり、生産能力の向上がうかがえるものの、機械工業や化学工業、繊維工業など全工業の付加価値成長率平均である全国工業平均(同+9.6%)を下回る水準となっています。製品別の生産量としては、化学繊維(同+9.1%)、糸(同+8.4%)、布(同+7.5%)、衣類(同+8.4%)とそれぞれ成長しました。
2021年における服飾、靴、帽子、針織物類の小売額は1兆3,842億元(前年比+12.7%)と市場規模が10%超拡大し、特に中国国内のECサイトによる服飾等商品の小売額の成長率は同+14.1%となりました。
2021年における織物・服飾の輸出額は、3,155億ドル(前年比+8.4%)となり、過去最高を記録しました。そのうち、織物の輸出額は1,452億ドル(同-5.6%)となりました。紡績工業は労働集約型産業であり、中国における人件費等の原価面は、東南アジアに比べて高くなっているため、輸出額はこれからも減少傾向で推移すると予想されます。
2021年、世界はサプライチェーン、エネルギー、インフレを含む多くの危機に直面しています。これらの問題は国際需要回復の勢いを減速させ、国際紡績調達の受注構造の変化にさらされることになります。さらに、外国貿易企業における原材料価格や運賃の上昇、労働コストの増加などの諸問題は続いています。