第55回 中国における企業倒産(2024年7月時点

更新日:2025.04.24

今回は、2024年7月時点の中国における企業倒産について触れていきたいと思います。

1、倒産企業の構成

中国の企業破産法では、「企業法人が期限到来債務を弁済できず、且つ債務超過状態あるいは明らかに弁済能力がない場合、法律に基づき債務を整理できる」と定めています。中国では、「破産清算」、「重整」、「和解」の3種類の倒産手続きが存在します。

「破産清算」とは、債務者が期限の到来した債務を弁済することができない場合に、債務者の全資産をもって、法定の順序に基づき、債権額の比率によって、債権者に対して配当を行う制度です。「重整」とは、破産原因を有し、または破産の可能性があるものの、再生の可能性がある債務者に対し、債権者の同意した再生計画案を人民法院が認可した場合に、計画を履行することによって弁済する制度です。「和解」とは、和議とも呼ばれ、債務者が人民法院に対して債務に関する和議協議書草案を提出し、人民法院による認可、債権者の同意を経て、これを履行することによって債権者に弁済する制度です。

倒産案件の増加に伴い、中国各地の人民法院は、オープンプラットフォームである「全国企業破産更生事件情報ネットワーク」に2016年から徐々に倒産案件を公開し、債権者集会招集をオンラインで行うなどIT化を進めています。各人民法院の公開開始時期が統一されていないため、ここでは「全国企業破産更生事件情報ネットワーク」において、2024年7月時点で審理中の倒産案件1,935社を対象に分析を実施します。なお、1,935社のうち、「破産清算」が1,604 社、「重整」が187社、「和解」が144社となっています。

①業種別

図1 2024年7月時点倒産企業の業種分析

倒産企業の業種別分布について、「不動産業」の倒産件数が最も多く、全体の14.4%を占めています。次いで「卸売・小売業」(8.6%)、「建設・建材産業」(8.1%)となっています。不動産業とその川上に位置する建設・建材産業における倒産が全体の2割を超えており、2021年から施行された不動産企業に対する債務規制政策が一因として考えられます。

②企業形態別分布

図2 2024年7月時点倒産企業の企業形態分布

企業形態別の倒産企業について、民間企業をメインとするその他(85.9%)の割合が最も高く、倒産企業全体の9割近くを占めています。次いで国有企業(8.8%)、集団所有制企業(2.7%)となっています。企業数が多い民営企業だけでなく、信用力が高いと思われている国有企業や集団所有制企業においても倒産が発生している様子が表れています。

③地域別

図3 2024年7月時点倒産企業の地域分布

地域別の倒産企業について、重慶市(22.8%)が最も多く、次いで浙江省(20.2%)、江蘇省(10.1%)となりました。東部沿岸地方(浙江省、江蘇省、広東省)は、中国の経済が繁栄している地域であり、企業数が多いため倒産件数も目立ちます。重慶市は西南部の工業都市として、産業構造が重工業や製造業などに偏っており、経済の低迷や市場需要の減少などに直面した際に、大きな打撃を受けやすく、倒産リスクが高まる傾向があります。また、東部沿岸地方の産業構造は、軽工業や電子情報産業、インターネットなどの新興産業を含む多様化した構造であり、新興産業は高いリスク耐性を有している可能性があります。

2、企業破産原因

➀企業自身の要因

・経営管理の不善

企業内部の経営管理が悪いと、資金の効率的な運用ができず、「在庫過多」の状態に陥ることがあります。在庫過多とは、企業が多額の資金を商品在庫に投じ、その資金が滞留することを指します。他の経営活動や投資に利用できなくなるため、長期間にわたり在庫が滞留すると、企業の流動資金を圧迫し、資金繰りが悪化します。

・技術力とイノベーションの不足

市場の変化や技術の更新により、企業の投資プロジェクトが失敗し、大量の資金損失を招くことがあります。急速に変化する市場環境の中で、技術革新や持続的なイノベーションができない企業は、競争優位や収益性を維持することが難しくなります。

・拡大の失敗

企業は、市場シェアを拡大し、多角化を進めることで事業拡大を図りますが、時には、マクロ経済の変動や業界内の変化などの影響によって、投資回収が予想よりも大幅に悪化することで、資金繰りが逼迫し、当初の返済計画どおりに資金を返済できなくなるケースがあります。

②環境の要因

・政策の変動

政策の変更は、しばしば市場の需要を変化させます。例えば、環境政策の強化により、高汚染・高エネルギー消費型の製品需要が減少し、関連企業の生産や販売に影響を与えることがあります。企業が製品構造や市場戦略を迅速に調整できなければ、製品の売れ残りや生産の低迷に直面し、経営困難に陥る可能性があります。

・市場競争の激化

市場が発展するにつれて、競合他社が次々と参入し、「ブルーオーシャン」が「レッドオーシャン」に変わります。企業が市場シェアや競争優位を維持するためには、継続的に研究開発やマーケティングに資金を投入する必要があり、投資・収支計画が順調に進んでいるかを注視する必要があります

おすすめのコラムColumn

第55回 中国における企業倒産(2024年7月時点

コラムをみる

第54回 中国における与信管理:業界分析 医薬品製造業

コラムをみる

おすすめのセミナーRecommend

おすすめ

2025.04.25(金)

15:00~16:00

中国市場の与信リスクと対策:事例で学ぶ効果的な管理法

  • 会場・WEB
  • 無料
  • 日本語

詳細ページへ

おすすめ

2025.05.21

14:30~17:00

【アリアンツ・トレード共催】中国での与信管理&取引信用保険を活用した債権保全

  • 会場・WEB配信
  • 無料
  • 日本語

詳細ページへ


資料請求 セミナー一覧