中国は、その広大な市場と堅実な製造基盤から、多くの日本企業にとって魅力的な投資先である。国土が広く中国で新規投資或いは投資拡大をする際、どの地域に注目すべきかは常に1つの大きな課題である。地域によって異なる経済の特性や、進出しやすさを理解することで、日系企業はより効果的な投資戦略を立てることが可能になる。更に、中国においても、日系企業同士の取引が多く発生するため、日系企業が多い地域に拠点を設立すると商流がよりスムーズになる利点などもある。

 今回の調査では、中国における日系企業の地域分布をランキング形式で探ってみる。これらの情報を踏まえ、どの地域が自社のビジネスに最適かを考え、投資計画策定のご参考になれれば幸いと思う。

 今回の調査結果は、図1と表1に示されている通りである。上海市で登録されている日系企業は8,107社(29.20%)と圧倒的なシェアで1位となった。この数字は、上海がいかに日本企業にとって重要な拠点であるかを如実に示している。上海は、その国際的なビジネス環境と先進的な金融を含む事業インフラで知られ、多くの日本企業は中国本部を置く場所として選んでいる。

 次いで、製造業の集積地として知られる江蘇省と広東省がそれぞれ3,898社(14.04%)と3,628社(13.07%)で2位と3位にランクインしている。上位3地域だけで、日系企業全体のほぼ半数が集まっており、幅広い業種の日系企業にとって投資のホットスポットであることが見受けられる。

 また、中国北部も注目に値する地域である。ランキングの4位から6位は、遼寧省1,958社(7.05%)、山東省1,901社(6.85%)、北京市1,712社(6.17%)の順となっている。北京市は中国の政治の中心地としての役割があり、中国本部を置く場所としても人気がある。

 最後に、浙江省が1,624社(5.85%)で7位、天津市が999社(3.60%)で8位、四川省と湖北省がそれぞれ750社(2.70%)で9位、592社(2.13%)で10位となっている。内陸部では、四川省と湖北省が日系企業の重要な拠点となっている。特に湖北省は、自動車製造業を中心に多くの日系企業が存在し、地域特有の産業構造が形成されている。

図1 中国に進出した日系企業の地域分布地図(単位:社)

表1 中国に進出した日系企業の地域分布ランキング 1位~10位

 上海市、江蘇省、広東省の上位3地域は他の地域と比較して、日系企業数が明らかに多いことが分かる。上海は国際的な輸出入ポートであり、商社や貿易会社が多く存在し、また、経済が発展しているため、多くの日系メーカーが販売拠点を設置していることから、卸売業の企業が多い。同時に、中国の金融センターとしての役割を果たしており、多くの日本の銀行や金融機関が進出している。

 江蘇省は、上海に隣接し、交通が便利な一方、家賃や人件費は上海ほど高くないため、江蘇省に販売拠点を置く日系企業も少なくない。更に、華東地域の製造ハブとして、機械工業から軽工業、電子工業など多岐にわたる分野の製造業が盛んである。特に織物製造業とプラスチック製品業において中小規模の企業が多い。

 広東省は、華南地域の経済と製造の中心として、多くの販売拠点が設置されており、卸売業と小売業が盛んである。製造業においては、江蘇省に類似して各分野の製造業が発展している。その中でも独自の産業構成を形成し、電子部品製造業や自動車製造業が特に発展している。

 表2~4にある通り、これらの地域の代表的な日系企業をピックアップして紹介する。

表2 上海市資本金上位日系企業

表3 江蘇省資本金上位日系企業

表4 広東省資本金上位日系企業

 また図2では、直近10年における中国日系企業の地域分布の年次推移を示している。2012年の日系企業数と比較すると、上海市、江蘇省、遼寧省、天津市のシェアが減少傾向である一方で、広東省と山東省は増加している。図3にある通り、2020年からは卸売業・小売業の日系企業が増加しており、進出企業の業種の変化が地域分布のトレンドに影響を与えていることがうかがえる。
 また、2022年の広東省、山東省の人口は1億人を超え、それぞれ中国国内で1位、2位と最も人口が多い地域であり、市場が大きいことに加えて、2022年のGDPは、中国国内で広東省が1位、山東省が3位であり、近年の中国経済の中心になっていることが原因と考えられる。

図2 中国に進出した日系企業の地域分布ランキング 1位~10位の年次推移

図3 中国に進出した日系企業の上位5業種の年次推移

 今回の調査を通じて、中国各地に進出している日系企業の分布状況をランキング形式で紹介した。このデータから、各地域のビジネス環境の活性度が読み取れる。各地域には特性と優位性があり、特定の産業が集積している傾向が明確になっている。これにより、業種に適した戦略的な拠点選び及び効果的な投資計画策定の助けとなるだろう。企業が市場環境を正確に把握し、そのポテンシャルに応じた投資戦略を形成することが期待される。

[実施概要]

・調査名称 : 中国日系企業の地域分布ランキング
・調査方法 : 中国における日系企業の法人登記情報に基づく
・調査対象データ更新時期 : 2023年3月時点で開示されていた法人登記情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びその傘下企業
・調査対象企業数 : 27,968社

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※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。
※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2023年3月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。

[参考資料]

表5 中国に進出した日系企業の地域分布ランキング 11位~31位

表6 日系企業4位~10位地域の資本金上位企業