新しい技術を開発するためには、膨大な資金や時間、労力が必要であり、特許の保有件数は企業の技術力や開発能力、成長性を示す重要な指標となる。また、企業独自の技術を守り、競争優位性を維持することで、業界への影響力も高まることから、特許保有は企業価値を向上させる効果もある。

 今回は、中国日系企業による特許の保有件数を集計し、ランキングを作成することで、どの様な企業の特許保有数が多く、業界への影響力が高いかを調査した。

 

 ランキングを紹介する前に、特許制度について改めて説明する。

 日本における特許権は、権利を受けた者が発明を独占的に使用できる財産権の一つであり、特許庁による審査の上で取得する。特許を取得した発明は、権利者が独占的に利用できるだけではなく、第三者に利用を承諾することでライセンス収入を得ることが出来る。

 中国でも、日本と同様に特許制度が存在している。表1の通り、中国の特許制度には、『特許法』に基づき、発明、実用新案、外観設計の3種類がある。日本の特許権にあたる「発明」のほか、日本での実用新案権、意匠権にあたる権利についても、「実用新案」、「外観設計」として、特許権の一部となっている。このように、中国の特許制度は、特許種類の区分や、存続期間、申請方法など日本と異なる点も多いが、特許権によって権利が保護されるという点では同様である。

表1 中国における特許の種類

参考サイト:中国国家知的財産局

 調査の結果、中国日系企業全体の10%弱にあたる2,761社が有効な特許(「発明公開、実質審査、特許付与」段階にある発明、実用新案、外観設計)を保有していることが分かった。特許を100件以上保有している企業は58社あり、その中でも、上位10社について詳しく紹介する。

 表2の通り、中国日系企業の特許保有数ランキングでは、日産自動車が5,376件の特許を保有し、2位と1,103件の差をつけて1位となった。現地法人23社の中でも、特に特許保有数が多いのは「東風汽車有限公司」(特許保有数1,247件)、「鄭州日産汽車有限公司」(同1,215件)、「東風電駆動系統有限公司」(同648件)となっている。2位はパナソニックホールディングスで、4,273件の特許を保有している。特許保有数が多い現地法人は「杭州松下家用電器有限公司」(同761件)、「広東松下環境系統有限公司」(同601件)、「唐山松下産業机器有限公司」(同555件)となっている。3位は本田技研工業で、3,237件の特許を保有している。特許保有数が多い現地法人は「広汽本田汽車有限公司」(同1,690件)、「広汽本田汽車研究開発有限公司」(同511件)、「東風本田汽車有限公司」(同256件)となっている。

 上位10社のランキングでは、製造業、特に自動車製造業や電気機械器具製造業のような技術集約型産業の企業がランクインし、企業成長のために技術力や開発力が不可欠であるという、業種特徴が顕著に表れている。

2 中国日系企業の特許保有数ランキング 1位~10

 表3の通り、中国日系企業の特許保有数を業種別に集計すると、自動車製造業が15,026件で1位となっている。2位と3位はそれぞれ電気機械器具製造業14,187件、汎用設備製造業11,880件である。

 自動車は多くの技術が集積された製品であり、エンジン、電子制御、材料工学といった従来の技術から、安全システム、環境規制対応技術、電動化技術、自動運転技術といった最新の技術まで、多岐にわたる分野で技術革新が行われるため、自動車製造業では多くの特許が出願されている。また、電子デバイスや家電製品が含まれる、電気機械器具製造業は、技術革新のスピードが速く、特に近年は、スマート家電やIoTデバイスの開発が活発であり、次々と新しい製品が開発されるため、特許の出願が頻繁に行われている。汎用設備製造業は、様々な産業で利用される製品を製造しており、各分野での応用技術に関する特許が多い。近年は、産業オートメーションの進展に伴い、工場の自動化やロボット技術、エネルギー管理システムに関連する特許出願も増加している。

表3 中国日系企業の業種別特許数ランキング 1位~10位

 今回の調査では、中国に進出している日系企業が保有する特許数をランキング形式で紹介した。その結果、技術力が高く、知的財産保護に対する意識が高い日系企業が中国でも多く存在していることが明らかになった。

 特許の多さは、企業の技術力や成長性を示す重要な指標である一方、特許を維持するには年間費用がかかるため、コストも伴う。そのため、特許をどのように活用し、商品化して利益を上げているかが重要である。特許はただ取得するだけでなく、実際のビジネスで活用して初めて真の価値を発揮ため、企業はこの視点を持って特許戦略を立てることが求められる。また、取引先の技術力、成長性を測る際には、特許件数に注目するだけではなく、その特許の活用状況についても確認することが必要となる。

[実施概要]

・調査名称 : 中国日系企業の特許保有数ランキング
・調査方法 : 中国における日系企業の法人登記情報に基づく
・調査対象データ更新時期 : 2023年3月時点で開示されていた法人登記情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びその傘下企業
・調査対象企業数 : 27,968社

利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。中国での業務拡大をお考えの方は、是非ご利用検討ください。

※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。
※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2023年3月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。

[参考資料]

表4  中国日系企業の特許数ランキング 11位~30