第8弾 中国ブラックリスト入りの日系企業

更新日:2024年06月25日

 2013年10月、中国の最高裁は社会信用システムの確立を促進するために、「信用喪失の被執行人リスト情報の公開に関する最高裁の若干規定」を施行した。それに伴い、中国全土の各級人民法院(裁判所)が、賠償金の支払い等の義務を履行しない被執行人のリストである「信用喪失被執行人リスト」(通称、「ブラックリスト」。以降、ブラックリストと記載)を公式サイト(www.court.gov.cn)で公開することになった。

 被執行人がブラックリストに掲載されるまでは、以下のようなプロセスとなっている。

①判決の発効:裁判所が判決を下し、被執行人に対して特定の義務を履行するよう命じる。

②履行期限の経過:被執行人が指定された期限内に義務を果たさない場合、強制執行に移る。

③強制執行:裁判所が被執行人の銀行口座や資産を調査し、処分可能な財産は強制的に支払いに利用される。

④高水準消費の制限:処分可能な財産がないと判断された場合、不動産の購入や飛行機の利用など、生計又は事業運営に必要のない消費(高水準消費)に制限が課される。

⑤ブラックリストへの追加:最終的に、一定の条件を満たせば、被執行人はブラックリストに追加される。

 ブラックリストに掲載された企業は、政府入札への参加や銀行融資のほか、行政承認、政府支援、市場参入、資格認定など公的機関の手続きが制限される。さらに、資産が凍結され、厳しい懲戒措置を受けるため、正常な経営が困難になり、実質的に休廃業状態に追い込まれることが多い。

そのため、新規取引の際には、取引先がブラックリストに掲載されていないかを確認するほか、取引先がブラックリストに追加されたという情報を入手した場合には、倒産の危険性が極めて高い状況であると判断し、取引先の現状をいち早く確認し、場合によっては債権回収の手続きを進めるなどの対応が必要である。

 2024年5月21日時点で835.5万件の信用喪失被執行人情報が公示されており、そのうち半数以上の457.2万件が法人やその他組織に関する情報である。

 今回は、中国のブラックリストを調査し、どのような日系企業が掲載されているかを分析した。その結果、現在46社の日系企業がブラックリストに掲載されていることが明らかになった。これは、中国で登記している日系企業の0.16%にあたり、日系企業が中国のブラックリストに掲載されるケースは非常に少ないことが分かる。

 また、ブラックリストに掲載されている日系企業を業種別に集計したところ、繊維工業8件、金属製品製造業5件、飲食サービス業4件の順に多かった。(表1)

表1 中国ブラックリスト入りの日系企業 業種ランキング1~3位

 これらの業界では小規模の企業が多く、大企業に比べて管理体制が整っていないため、法律に違反してしまうケースが多くなる。また、繊維工業は労働集約型産業で多くの労働者を雇用する必要があるため、労働条件に関連した労働紛争が起きやすいことが要因と考えられる。

 次に、ブラックリスト入りした日系企業を裁判の案件数が多い順に整理した。(表2)

表2 中国ブラックリスト入りの日系企業 裁判案件数2件以上の先

 これらの企業がブラックリストに掲載される原因となった案件を分析すると、労働者との間で発生する賃金未払いや労働条件に関する労働紛争(7件)が最も多い。また、商品やサービス提供に関連する契約履行トラブルを指す、売買契約紛争(4件)も主な原因となっていることが判明した。

 日系企業が中国のブラックリストに掲載される背景には、業種特有の課題や中小企業の管理体制の不備が影響している。ブラックリストに掲載された企業は、正常な経営活動が困難になり、実質休廃業に追い込まれるため、中国の取引先と取引する際には、日系企業であってもブラックリストに掲載されている企業でないかを確認する必要がある。また、自社がブラックリストに入らないように、現地の法律を順守して経営活動を行うことが不可欠である。

 利墨の与信管理サービスでは日々ブラックリストやその他特殊情報を調査しながら、取引可否の判断が簡単になる信用調査レポートや簡易ナビ、取引先の変化に気づく変動通知サービスを提供し、会員様の中国での事業展開をサポートしています。

[実施概要] 

・調査名称 :「中国ブラックリスト入りの日系企業」調査 

・調査方法 : 中国における日系企業の法人登記情報及び信用喪失被執行人リスト情報に基づく 

・調査対象データ更新時期 : 2023年3月時点で開示されていた法人登記情報、2024年5月時点で開示されていた信用喪失被執行人リスト 

・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びその傘下企業 

・調査対象企業数 : 27,968社 

利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。中国での業務拡大をお考えの方は、是非ご利用検討ください。 

※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。 

※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2023年3月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。

[参考資料]

表3 ブラックリスト入り日系企業リスト 案件数2件先

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