商標とは、商品やサービスの提供者を識別するために使用する、ネーミングやロゴマークなどのことである。独自性があり魅力的な商標は、商品の競争力、ブランド認知度を高め、商品価値を向上させる。

 また、商標を登録することで、他者による無断使用や類似商標の使用に対して法的手段を取ることができ、消費者の混乱を避けて、自社のブランド価値を保護することができる。

 このように、商標の登録は企業戦略として非常に重要であり、商標の保有数は企業のブランド価値や競争力を評価する一つの指標とも考えられる。

 今回は、中国において商標を保有している日系企業について、調査・分析を行った。

【調査結果】

 弊社が独自に収集した、「中国日系企業データベース」※によると、現在、中国に進出している日系企業全体の36.6%に相当する10,238社が登録商標を保有しており、登録件数は総計30,832件となっている。

 まず、中国日系企業の保有商標を業種別に集計したところ、「卸売業」(商標保有数 5,684件)が最も多く、以下、「自動車製造業」(同 3,207件)、「ビジネスサービス業」(同2,295件)と続いた。(表1)

 また、細分業種にまで注目すると、「卸売業」においては、「機械器具、金物製品及び電子製品卸売」(同1,704件)、「その他卸売業」(同1,097件)、「繊維・衣類・家庭用品卸売」 (同843件)の件数が多い。「自動車製造業」では、「自動車部品及びアクセサリー製造」(同465件)、「自動車車体およびトレーラー製造」(同200件)の件数が目立っている。「ビジネスサービス業」では、「コンサルティング・調査」(同781件)、「その他ビジネスサービス」(同761件)、「組織管理サービス」(同724件)の件数が多い。

 さらに、業種別に1社あたりの商標保有数を計算したところ、「化学原料・化学製品製造業」(1社あたりの商標保有数5.9件)、「自動車製造業」(同4.4件)、「電気機械器具製造業」(同3.4件)の3業種は他業種と比較して件数が多かった。一方で、「卸売業」、「ビジネスサービス業」、「小売業」の3業種は、商標件数は多いものの、1社あたりの平均商標件数は1件以下と少なかった。

表1 中国日系企業の業種別商標保有数ランキング 1位~10位

 続いて、中国日系企業の保有商標を登記分類別に集計した。(表2)
 商標を登録する際には、製品やサービスの分類を選択する必要があるが、1件の商標を複数の分類で登録することができる。

 調査の結果、「第9類」(商標数2,367件)が最も多く、2位「第35類」(同2,287件)、3位「第7類」(同1,814件)と続いた。

 1位の「第9類」には、コンピューターやスマートフォンなどの電子計算機類、アプリなどのコンピュータプログラム等が含まれる。2位の「第35類」には、主に広告関連サービス、ビジネスマネジメント支援、販売促進サービス、オンライン市場サービス等が該当する。ほかの分類の商標であっても、第三者による広告分野での商標使用を防ぐ目的で、同時にこの分類で登録するため、件数が多くなっていると考えられる。3位の「第7類」は、産業用の機械器具や、洗濯機、掃除機、食器洗浄機のような、産業用機械から家電などの機械等を含む。

表2 中国日系企業の商標分類別件数ランキング 1位~10位

 最後に、商標件数の多い企業について調査をしたところ、1位「本田技研工業」(商標保有件数1,873件)、2位「日産自動車」(同1,122件)、3位「パナソニックホールディングス」(1,052件)となった。(表3)

 上位10社のうち、自動車製造業が3社、化学工業が5社ランクインしており、この2業種が多くの商標を保有する傾向にあることがうかがえる。

表3 中国日系企業の商標保有数ランキング 1位~10位

 また、ランキング上位企業には、以下4点の共通する特徴がある。

 

1.製品バリエーションが豊富
商標が多い企業は、さまざまな製品カテゴリーを扱っている。自動車メーカーは多様な車両モデルを展開し、電器メーカーは幅広い電化製品を提供し、化学品メーカーは多種多様な化学製品を取り揃えている。

2.製品開発の頻度

新製品の開発が頻繁であり、市場のトレンドに迅速に対応している。自動車業界では新しいモデルの導入が定期的に行われ、電器業界では技術革新が早く、ソフトウェア業界では新しい機能やバージョンが次々と登場する。

3.独創性
競争の激しい市場で差別化を図るために、製品に対する独創性が求められ、独自の商標が登録されることが多い。

4.BtoC
多くの製品が一般消費者に直接提供されるため、広告とマーケティング活動の重要性が高い。そのため、独自の商標を登録し、商品のブランド化を目指す。

これらの特徴を備える企業は商標の数も多くなってくる。

【まとめ】
 今回の調査では、中国市場に進出している日系企業の商標保有数をランキング形式で紹介した。商標保有件数は、企業の製品バリエーションと更新頻度、独創性、そしてブランド戦略を反映している。一方で、商標の申請や維持にはコストも伴うため、単に商標を取得するだけでなく、その商標を実際のビジネスで効果的に活用することが重要である。

 商標が活用されていない場合、第三者からの申し立てによって商標局による取消しが行われる可能性もあるため、企業は商標をどのように戦略的に活用し、利益を上げるかを明確にし、戦略を立てることが求められる。

 企業を評価する上では、商標の保有件数を一つの指標とすることができるが、実際に活用がされているか、計画的な運用がされているかにも注目する必要がある。

[実施概要]

・調査名称 :中国日系企業の商標保有数ランキング
・調査方法 :中国における日系企業の法人登記情報と商標情報に基づく
・調査対象データ更新時期 : 2023年3月時点で開示されていた法人登記情報と2024年7月時点で開示されていた商標情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びその傘下企業
・調査対象企業数 : 27,968社

※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。

※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2023年3月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。

利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。

また、2024年6月26日より、お客様のご要望に応え、新サービス「中国日系企業攻めモン」をスタートいたしました。中国日系企業攻めモンは、中国全土に進出した日系企業のデータを抽出できるサービスです。業務内容・資本金・日本親会社などの抽出条件を選択することで、条件に該当する企業を抽出できます。弊社独自の日系企業DBを利用し、他社では入手できない日系企業の正確な情報を提供いたします。

中国での業務拡大をお考えの方は、是非ご利用検討ください。

[参考資料]

表4 中国日系企業の商標保有数ランキング 11位~30位