第17弾 中国における日系企業の休廃業動向

更新日:2025年03月26日

 

 2023年、中国における外資からの投資額は1632億5000万米ドル(前年比-13.7%)となり、直近10年間で初めてのマイナス成長となった。グローバル的な経済低迷、各国によるサプライチェーンの安全性確保対策、中国における人件費等コストの上昇、中国市場の成長減速、米中貿易戦争などを背景に、外資系企業による中国国内の工場閉鎖や事業撤退のニュースを目にすることが増えている。

 このような背景のもと、今回の調査では、弊社が2023年3月時点で把握していた中国日系企業(23.202社※1)のうち、2025年2月時点で休廃業に至った企業を集計した。休廃業の判断基準は、企業登記情報の企業形態(登記抹消、休業・廃業)と年度報告の企業状態(休業・廃業・清算)に基づいて判断している。

 調査の結果、休廃業に至った日系企業は2,163社と日系企業全体の9.3%を占めていることが明らかになった。

※1中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びそのグループ企業(株式保有率50%以上の会社及びその会社が支配している会社(50%以上)をグループ会社とする)。営利活動が許可されていない代表処(※2)は休廃業の判断が難しいため除く。

※2代表処とは、中国で登記されている外国企業の法人の1種で、一般企業と違い営利活動が禁止されている。

業種別の休廃業動向

 休廃業に至った日系企業を業種別に集計したところ、「卸売業」(休廃業社数521社)が最も多く、2位が「小売業」(同473社)、3位が「ビジネスサービス業」(同284社)となった。(表1)これは、日系企業の業種別進出数(第5弾 中国日系企業の業種分布ランキング)とほぼ比例する結果といえる。一方、第5弾では進出企業数がTOP10入りの自動車製造業(休廃業率3.3%)と金属製品業(同4.8%)は表1のランキングに入っておらず、休廃業率が比較的低いことがわかる。休廃業数上位10業種のうち、特に飲食業(同19.2%)、小売業(同21.4%)における休廃業率の高さが目立っている。

表1 中国日系企業業種別休廃業社数ランキング

※休廃業率=休廃業企業数/業界企業数

 また、休廃業に至った日系企業に対して、日本親会社と紐づけた企業数をもとにランキングを作成した。(表2)

 「ローソン」が202社(店舗)を閉店しトップとなった。次いで「セブン-イレブン」(62社)、「ベネッセ」(56社)が続く。これも概ね親会社別の進出企業数(中国に進出した日系企業の関連企業数ランキング)と比例する結果といえる。一方で、「関連企業数ランキング」ではTOP10入りの「ファーストリテイリング」(休廃業社数15社)や「三菱電機」(同1社)、「日立ビルシステム」(同3社)は表2にランクインしていないことから休廃業率が低いことが分かる。休廃業数上位10社において、小売業3社、飲食業3社とこの2業種における企業は休廃業数が多くなる傾向がある。

表2 中国日系企業親会社別休廃業社数ランキング

 小売業と飲食業では、チェーン展開を行う企業が多く、また、消費者の嗜好や流行の影響を受けやすく、エリアの衰退や消費者の移動に伴い、頻繁に店舗の閉鎖・移転が発生し、その結果、登録上の休廃業件数が増加している。

地域別の休廃業動向

 休廃業に至った日系企業に対して、地域分布について調査をしたところ、「上海市」(休廃業社数561社)が最も多く、2位が「広東省」(同245社)、「江蘇省」(同245社)となった。これも、地域別の進出企業数(第6弾 中国日系企業の地域分布ランキング)と比例した結果といえる。しかし、上位10地域のうち、四川省(休廃業率15.5%)と重慶市(同15.5%)では特に高い休廃業率が見られた。(表3)

表3 地域別中国日系休廃業企業社数ランキング

 これは、これらの地域における日系企業の業種構成が小売業・飲食業に偏っていることが影響している。四川省に分布する日系企業の約半分(46.5%)が小売業・飲食業であり、重慶市も同様に小売業・飲食業の割合が40.7%になっているため、休廃業率が高くなっている。

休廃業企業の資本金規模

 資本金は、企業の規模や信頼性を測る上で重要な指標であるため、資本金が登録されている休廃業企業711社※3に対して、金額分布を集計したところ、100万元~500万元(272社)が最も多く、次に1千万元~5千万元(148社)、500万元~1千万元(88社)の順となっている。資本金別の休廃業率は、資金規模が小さい企業ほど休廃業しやすいことを示している。(表4)
※3 支店・支社の場合は登録資本金がありません。

表4 資本金別中国日系休廃業企業社数

従業員数が多い休廃業企業

 従業員数が多い大規模企業の休廃業は件数が少ないものの、影響を受ける人数は多く、現地経済や失業率にも影響を及ぼす。ここで、休廃業企業が休廃業になる直前に提出した年度報告に社会保険加入人数(現地従業員数)の記載がある企業1,903社について、休廃業に至った日系企業に対して、日本親会社と紐づけた従業員数をもとにランキングを作成した。(表5)1位は「小松製作所」(休廃業社数4社、従業員数1,045名)、2位は「矢崎総業」(同3社、899名)、3位は「酒伊編織」(同1社、713名)である。「小松製作所」は中国における建設機械の生産能力の一部を縮小し、山東省済寧市の2つの工場、江蘇省常州市の2つの工場をそれぞれ統合した模様。「矢崎総業」は、主要顧客である国内自動車の販売台数が、新エネルギー車の影響により徐々に減少しているため、ワイヤーハーネスの注文が減少し、広東省汕頭にある澄海工場を段階的に閉鎖し、生産能力を汕頭の他の工場に統合することを決定した。「酒伊編織」は蘇州にある服装工場をベトナムに移転した模様。

 

表5 親会社別中国日系休廃業企業従業員数ランキング

休廃業企業のブラックリスト入り状況

 ブラックリストとは、中国全土の各級人民法院(裁判所)が、賠償金の支払い等の義務を履行しない被執行人のリストである「信用喪失被執行人リスト」であり、ブラックリストに掲載された企業は、政府入札への参加や銀行融資のほか、行政承認、政府支援、市場参入、資格認定など公的機関の手続きが制限される。さらに、資産が凍結され、厳しい懲戒措置を受けるため、正常な経営が困難になり、実質的に休廃業状態に追い込まれることが多い(第8弾 中国ブラックリスト入りの日系企業)。そこで休廃業に至った日系企業に対して、ブラックリストに入っているかどうかを確認したところ、休廃業企業全体の0.6%に相当する13社がブラックリスト入りとなっており、日系企業全体(0.16%)の約4倍にもなっている。ブラックリスト入り企業は休廃業率が高くなるため、取引先がブラックリスト入りかどうかをチェックすることが重要である。

まとめ

 中国における日系企業の休廃業は、市場の変化、コスト上昇、米中関係の影響など複数の要因が絡み合って発生している。特に、小売業や飲食業において休廃業率が高く、地域別では四川省・重慶市のリスクが目立つ。また、資本金の少ない企業ほど撤退しやすい傾向があり、ブラックリスト入り企業は特に注意が必要だ。これらのデータをもとに、日系企業は今後の中国市場戦略を慎重に検討し、事業環境の変化に適応することが求められる。

[実施概要]

・調査名称 :中国における日系企業の休廃業動向 
・調査方法 :中国における日系企業の法人登記情報に基づく
・調査対象データ更新時期:2025年2月時点で開示されていた法人登記情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びそのグループ企業(株式保有率50%以上の会社及びその会社が支配している会社(50%以上)をグループ会社とする)の内、2025年2月時点で休廃業となった企業
・調査対象企業数 :2,163社

※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。

※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2025年2月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。

利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。 

また、2024年6月より、お客様のご要望に応え、新サービス「中国日系企業攻めモン」を提供しております。中国日系企業攻めモンは、中国全土に進出した日系企業のデータを抽出できるサービスです。業務内容・資本金・日本親会社などの抽出条件を選択することで、条件に該当する企業を抽出できます。弊社独自の日系企業DBを利用し、他社では入手できない日系企業の正確な情報を提供いたします。 

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