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更新日:2025年11月06日
商標保有件数は、企業の競争力やブランド価値を評価する重要な指標の1つである。2024年8月に発表された「中国日系企業の商標保有数ランキング」(以下「前回調査」)では、中国市場に進出している日系企業の商標保有状況を紹介した。商標保有件数は、企業の製品バリエーションと更新頻度、独創性、そしてブランド戦略に大きく左右される。また、一度取得した商標でも、期限切れや第三者の異議申し立てによって取消される。戦略的に活用して収益を上げることが商標の維持に重要である。前回調査から1年以上が経ち、中国日系企業の商標保有状況にどのような変化があったのかを改めて見てみよう。
弊社が独自に収集した、「中国日系企業データベース」基づき、2025年8月時点の商標データで調査すると、中国に進出している日系企業全体(27,148社)の10.4%に相当する2,830社が登録商標を保有しており、登録件数は総計31,858件となっている。前回調査(保有社数2,870社、日系企業全体の10.3%に相当※1、商標総件数30,832件)に比べ、商標保有社数はわずかに減少した一方、商標総件数は微増している。
※1 前回調査にある「中国に進出している日系企業全体の36.6%に相当する10,238社が登録商標を保有」との記載が間違っており、正確な数字は「中国に進出している日系企業全体の10.3%に相当する2,870社が登録商標を保有」であり、ここで訂正する。
業種別に中国日系企業の商標保有件数を集計したところ(表1)、上位10業種の顔ぶれは前回調査と変わらず、一部の業種において小幅な上下動が発生している。「卸売業」(商標保有数5,978件)と「自動車製造業」(同3,241件)が引き続き1位・2位を維持している。「化学原料・化学製品製造業」(同2,341件)と「ビジネスサービス業」(同2,285件)は順位が入れ替わり、それぞれ3位と4位に。変動が最も大きい業種は、「科学技術の普及・応用サービス業」(同1,183件)であり、商標件数が前回比+29.9%と大幅に増加し、10位から8位へとランクアップした。
さらに、上位3業種の細分業種にまで注目すると、「卸売業」においては、「繊維・衣類・家庭用品卸売」(同1,201件)、「機械器具、金物製品及び電子製品卸売」(同1,118件)、「食品・飲料およびタバコ卸売」(同926件)の商標数が多い。「自動車製造業」では、商標の95%以上が「自動車部品及びアクセサリー製造」(同1,703件)と「自動車完成車製造」(同1,393件)に集中している。「化学原料・化学製品製造業」では、「塗料・インク・顔料および類似製品の製造」(同1,171件)、「日用化学製品の製造」(同836件)の商標数が目立っている。
1社あたりの商標保有件数については、前回調査と概ね同数値で推移し、「化学原料・化学製品製造業」(1社あたりの商標保有数4.8件)、「自動車製造業」(同4.2件)、「電気機械器具製造業」(同2.8件)の3業種が他業種を上回っている。
表1 中国日系企業の業種別商標保有数ランキング 1位~10位

続いて、中国日系企業の保有商標を登記分類別に集計した(表2)。商標登録時には、製品やサービスに応じた分類(ニース国際分類)を選択する必要がある。
調査の結果、「第35類 広告、事業の管理、小売・卸売」(商標件数2,303件)が1位、「第9類 科学用、電気制御用などの機械器具」(同2,164件)が2位となり、前回と同様の上位を維持しつつも順位が入れ替わった。3位以降は順位の変動が激しい。特に、「第12類 乗物その他移動用の装置」と「第2類 工業や美術用の顔料、着色剤、防腐製品」は前回よりそれぞれ+65.2%、+160.8%と大幅に商標件数が増加し、3位と10位に達した。
「第35類」は、主に広告関連サービス、ビジネスマネジメント支援、販売促進サービス、オンライン市場サービス等が該当する。日系企業がブランドの可視性や販売チャネルの強化に注力する姿勢がうかがえる。
表2 中国日系企業の商標分類別件数ランキング 1位~10位

商標保有件数の多い日系企業ランキングでは、上位10社のうち9社が前回と同じ顔ぶれで、順位に小幅な変動が見られた。
1位は、前回と同様に「本田技研工業」(商標保有数1,904件)である。続いて、「パナソニックホールディングス」(同1,186件)、前回から1位上昇して「日産自動車」(同1,181件)を抜き2位となった。
また、商標件数の増加が顕著だった企業は、「立邦塗料(中国)」(親会社「日本ペイントホールディングス」)+202件、「資生堂麗源化粧品」(親会社「資生堂」)+127件、「暁姿化粧品(上海)」(親会社「アクシージア」)+113件となっている。
自動車、電機、化粧品、塗料といった業種の大手企業が引き続き中国市場において強い存在感を示している。
表3 中国日系企業の商標保有数ランキング 1位~10位

備考:中国現地法人の統合範囲を前回調査より拡大して調査している。
図1は、2015年から2024年までの10年間における商標出願件数の変化を示している。直近10年間の商標出願件数を分析すると、2015年から2021年にかけて、中国における日系企業の商標出願件数は一貫して増加傾向にあり、2015年時点では年間出願件数が1,000件程度であったのに対し、2021年には3,000件を超えるレベルに達し、過去10年間で最も高い水準を記録した。しかし、2021年をピークに出願件数は減少に転じ、2024年には年間2,000件を下回る水準まで落ち込んでいた。この傾向は、日系企業の中国市場における新規ブランド展開や製品投入の勢いが鈍化していることを示唆している。
図1 中国日系企業の商標出願件数の年次推移

商標の有効期間は10年である。集計によると、中国における満期商標の継続率は50%未満にとどまり、ブランド資産の維持には継続的な戦略的投資が求められる。今回の調査では商標総件数はわずかに増加したものの、商標を保有する日系企業の数が減少し、新規製品、サービスを展開する企業が集中している傾向が見られる。
2021年以降の商標の出願件数の減少は、日系企業の中国市場における活動が鈍化している傾向は顕著になってきている。
商標保有件数は、企業の製品開発力、収益性、ブランド戦略を読み解く手がかりとなる。取引先の評価や市場分析において、商標データは財務情報や販売実績と並ぶ、重要な意思決定材料として活用できる。
[実施概要]
・調査名称 : 中国日系企業の商標保有数ランキング
・調査方法 : 中国における日系企業の法人登記情報と商標情報に基づく
・調査対象データ更新時期 : 2025年4月時点で開示されていた法人登記情報と2025年8月時点で開示されていた商標情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びその傘下企業
・調査対象企業数 : 27,148社
※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。
※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2025年4月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。
利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。
また、2024年6月より、お客様のご要望に応え、新サービス「中国日系企業攻めモン」を提供しております。中国日系企業攻めモンは、中国全土に進出した日系企業のデータを抽出できるサービスです。業務内容・資本金・日本親会社などの抽出条件を選択することで、条件に該当する企業を抽出できます。弊社独自の日系企業DBを利用し、他社では入手できない日系企業の正確な情報を提供いたします。
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