第21弾 第2回 中国における日系ITサービス業の市場動向

更新日:2025年09月04日

 世界的にAI技術の普及が加速する中、IT業界は経済発展を牽引する重要な役割を担い、かつてない変革とビジネス機会を迎えている。

 本レポートでは、2024年11月発表の「中国における日系ITサービス業の市場動向」(以下「前回調査」)と比較し、2025年4月時点の最新データをもとに、中国に進出している日系IT企業の最新トレンドと今後の方向性を分析する。なお、前回調査は2023年3月時点の法人登記情報を基に作成したものである。

1. 市場全体の概況

 2025年4月時点で、中国に進出している日系企業のうち、「通信・ソフトウェア・情報技術サービス業」に分類される企業は1,005社であり、日系企業全体(27,148社)の3.7%を占めている。前回調査 (898社、3.2%)と比べると、企業数・シェアともに増加した。

2. 業種別構成の変化

 細分類業種別では、「ソフトウェア開発」(501社、49.9%)が依然として最も多く、前回調査(50.9%)からわずかに減少した。2位の「その他情報技術サービス」(158社、15.7%)にはコールセンターなどが含まれ、前回調査(15.4%)から微増した。3位は「情報技術コンサルティングサービス」(92社、9.2%)で、前回調査(7.2%)から2ポイント増加し、成長が顕著であり、コンサルティング分野の拡大傾向が明確化している。

図1 中国日系ITサービス業の細分類業種分布

※業種分類は「中国産業分類基準」(GB/T4754-2017)に基づく

3. 親会社別ランキング(企業数上位)

 中国に進出している日系ITサービス業企業について、日本親会社と紐づけて企業数を集計し、最新のランキングを作成した。(表1)

 「NTTデータグループ」は1位に位置し、中国市場におけるIT事業規模の大きさがうかがえる。「ワンドット」が2位に躍り出し、2024年に北京と四川を中心に16社の企業・支社を設立している。同社はペット・育児プラットフォームを運営する企業であり、中国市場においてペット用品の配送拠点を急速に構築している。続いて、「日本電気」は15社、 「富士通」は14社のITサービス業企業を擁し、それぞれ3位と4位にランキングする。

 「日本電気」は通信ネットワークやクラウド、AIを中心に情報通信技術(ICT)サービスを提供している。社会インフラや企業向けITソリューションも主要事業である。「富士通」は製造業、金融、小売業向けに、システム統合、クラウド、AI、情報セキュリティなど、幅広いITソリューションを提供している。

表1 中国日系ITサービス業の親会社別企業数ランキング 1~8位

※同率順位の企業は、売上の高い順に掲載
※今回は各グループの中核企業を正確に統合し、統計対象となる企業数が前回調査より増加したため、前回のランキングとは比較していない。今後のリスモン調べは、今回と同じ基準で統計を行う。

4. 地域別動向

 ランキング10位の地域では、企業数はいずれも増加しているものの、シェアの面では顕著な違いが見られる。1位の上海、2位の遼寧および3位の広東は、シェアが減少しているのに対して、江蘇省、北京市、四川省、天津市は上昇傾向にある。上海や遼寧は産業が成熟しており、企業の増加余地が限られていることがうかがえる。

 表2 中国日系ITサービス業の地域別企業数ランキング 1-10 位

図2 中国日系ITサービス業の地域分布

5. 新設企業の動向(2023~2024年)

 2023年から2024年にかけて新設された日系IT企業は、合計77社であった。

 業種別に細分類すると、第1位の「情報技術コンサルティングサービス」(19社、25%、うちロームが5社)が最多を占め、成長傾向が顕著である。第2位は「その他情報技術サービス業」(16社、21%、うちワンドットが9社)で、第3位の「ソフトウェア開発」(13社、21%、うちワンドットが4社)は最大の細分類業種で、新設企業数も比較的多い傾向にある。

図3 中国日系ITサービス業の新設企業の細分類業種分布

 2023年から2024年までの期間に設立された新企業数を分析すると、首位はペット・育児プラットフォームを運営する「ワンドット株式会社」で、16社を新設している。第2位は3D設計ソフトウェアを主力とする「ダッソー・システムズ株式会社」で、7社を新設している。第3位は半導体製造を中心とする「ローム株式会社」で、6社を新設し、上位に名を連ねている。

表3 2023~2024年中国日系ITサービス業の新設企業の親会社別企業数ランキング 1~9位

6. 新設企業の地域分布

 地域別に分析すると、四川と北京に新設企業が集中していることがわかる。これは「ワンドット株式会社」が複数の支社を設立したことが大きな影響を与えている。この影響を除くと、近年日本のIT企業が最も注目している地域は、広東、江蘇、四川であることが確認できる。これらの地域は、IT産業の基盤が整っており、明確な集積効果を示している。

 日系企業の集積効果について見ると、江蘇と広東の日系企業数は上海に次ぐ規模となっている(参考:【第2回】中国日系企業の地域分布ランキング)。IT産業の発展という観点では、広東はAI企業が多数存在し、電子情報産業の売上が全国トップで、IT人材の需要が非常に高く、多くのIT企業が進出している。江蘇省のIT産業規模は全国でも上位に位置しており、2024年のデータでは、全省のデジタル経済コア産業の付加価値がGDPに占める割合は11.8%に達した。さらに、力強い政策支援がなされているほか、多数の重点大学が集積することで、豊富な人材資源も確保されている。四川は西部の経済中心地として、人件費やエネルギーコストの面で沿海地域より優位性があり、企業の進出先として注目されている。

図4 中国日系ITサービス業の新設企業の地域分布

7.まとめ

 デジタル化の加速に伴い、企業におけるデジタルサービスの需要が高まり、IT技術は製造業から現代のサービス業に至る幅広い分野で応用され、デジタルトランスフォーメーション、ハイテク製造業、サービス業などにおいて重要な役割を果たしている。

 2023年と比較すると、日系IT企業の数は継続的に増加しており、特に情報技術コンサルティングサービスとソフトウェア開発分野が顕著である。新興企業の急速な拡大は、市場の活力と多様な発展の方向を示している。企業の地域展開は、江蘇・広東・四川など新興のIT拠点に集中し、現地の人材や産業資源を重視する傾向が見られる。

 一方で、日系企業は中国の企業や消費者へのサービス向上、現地化管理や人材確保、高付加価値サービスの提供など、戦略・技術・組織面でのさらなる対応が求められている。

[実施概要]
・調査名称 : 中国に進出したITサービス業の日系企業について
・調査方法 : 中国における日系企業の法人登記情報に基づく
・調査対象データ更新時期 : 2025年4月時点で開示されていた法人登記情報
・調査対象企業 : 中国全土で登記されている日本企業出資の中国企業及びそのグループ企業(株式保有率50%以上の会社及びその会社が支配している会社(50%以上)をグループ会社とする)の内、通信・ソフトウェア・情報技術サービス業に分類される企業
・調査対象企業数 : 1,005社

※「中国日系企業データベース」とは、利墨が独自に収集した、中国全土で登記されている日本企業が出資している中国企業及びその傘下企業と日本の親会社情報を紐づけたデータベースのことを指す。
※ 調査に利用している中国法人登記情報は、2025年4月時点で開示されている情報であるため、企業の申告状況などにより最新の情報と異なる場合があります。
 利墨は、中国において、日中両言語のクラウド型のグループウェアやe-learningシステム、中国企業与信管理サービスを提供し、社内情報共有、社員教育と取引先管理を支援し、日系企業を管理面でサポートしております。
 また、2024年6月より、お客様のご要望に応え、新サービス「中国日系企業攻めモン」を提供しております。中国日系企業攻めモンは、中国全土に進出した日系企業のデータを抽出できるサービスです。業務内容・資本金・日本親会社などの抽出条件を選択することで、条件に該当する企業を抽出できます。弊社独自の日系企業DBを利用し、他社では入手できない日系企業の正確な情報を提供いたします。
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